令和2年度作業療法啓発ポスター

  • 2020年8月25日

~「Let’s Go Tokyo!」~

昨年度に行った作業療法啓発ポスター写真公募のポスター賞作品を紹介します。

脳性麻痺があり小児病院に入院中の“彼”と担当作業療法士である“私”の本当にあった物語です。

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彼と私

私の勤務する病院に入院している17 歳(当時)の彼は脳性麻痺のため車椅子で生活しています。彼の入院はさまざまな理由で幼少期から長期に渡っており、病院が彼の主な生活の場でした。そのため、彼が「あそこへ行きたい」と思ったとしてもその場ですぐにとはいかず、手順を踏む必要がありました。

「生活の中で彼が興味を持ったこと、やりたい事を自分で行う力を持ってほしい」「今後広がる彼の行動範囲に必要なスキルをたくさん持って欲しい」と私は考えていました。

きっかけ〜そして動きだす〜

そんなある日、知人から、「地域のプロバスケットボールチームの試合に入院している子を招待したい」と言う話が舞い込んできました。彼を誘ってみると、迷うことなく「いく」と返事が返ってきたのです。私は彼と作業療法の時間に、外出の計画を立てはじめました。やりたいことのためには何が必要か、そのためのお金の管理、スケジュールの組み立て、目的地に行くまでの移動手段。考えなければいけないことはたくさんありました。

当日〜想定と違ったこと〜

私はあえて当日同行しないことにしていました。彼が自分で同行する人を決め、依頼することも必要なスキルだと思ったからです。同行したスタッフから後で様子を聞けました。

まずは下調べしていたグッズを買いに行った彼。グッズ売り場はとても人が多く、なかなか車椅子では近寄れません。すると彼は気づいてくれた売り場スタッフと一生懸命やりとりをはじめました。事前に調べておいた豪快なダンクシュートを決める外国籍選手のTシャツを購入するためです。残念ながらそのTシャツはすでに売り切れでしたが、臨機応変、次のお目当ての選手のTシャツに急遽変更して購入できました。そのTシャツを着て片手に応援用のハリセンを持って観戦の準備万端。いよいよ試合開始です。

初めてのバスケ観戦〜試合始まる〜

初めて間近で見るバスケットボールの迫力やスピード感に彼はどんどんのめり込みました。Tシャツが売り切れだった一番お目当ての選手の豪快なダンクシュートも目の前で見ることができ大興奮。気付けば「Let’s Go Tokyo!」と彼も夢中で声援を送っていました。

何かに夢中になっていると時間はあっという間です。試合後買い物と食事をして帰りました。思わず予定の電車には乗り遅れてしまったようですが・・・。

彼が得たものは何か・・・?

これからの彼の生活を考えると課題はまだまだたくさんあります。しかし、自分で準備をし、頑張って手に入れたグッズを身につけ、試合を観戦できたことは達成感と共に彼の生活に新しい色を塗りたし、『彩り』を与えてくれました。

 

・・・後日談〜病棟にて〜

「あの外国籍選手、来シーズンもチームとの契約決まったね」と私が教えると、彼は「ええええ!本当に!楽しみ!」と嬉しそう。実は彼、あの後もバスケットの試合をテレビで観たり、インターネットで観戦したチーム以外の選手のことを調べたりとますますバスケットに夢中になっているのです。『バスケ観戦』で彩られた物語はこれからも続いていくのだと思います。

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今回の作業療法について解説

今回の作業療法士の関わりは、「筋力トレーニングをして体を鍛え、できない運動ができるようになった」というようなものとは違います。

『高校生』というと、世界(人やもの、場所、文化など)が広がったり、自己への気づき(興味や価値観、自身の可能性など)を期待されたりする時期です。彼が普段生活する病院から出て、バスケ観戦という新たな作業に取り組むこと、そのための準備や計画などに主体的に彼が関わったことは、彼の世界に影響を与えたと考えられます(夢中になれるものの発見)。作業療法士の狙いはそこにありました。

また今後の彼の生活で課題となること(計画して準備すること、公共交通機関の利用、人へ依頼すること、金銭管理、時間管理など)を実際に行っていくためにも、『外出する』ことの目的意識やモチベーションを高めることも重要だったのです。彼の日常に夢中になれるバスケ観戦という『彩り』が加わったことで、より彼の世界が拡がっていきます。作業療法士はその人なりの生活の方法を一緒に考え、習得を支援します。

脳性麻痺については下記のサイトをご参照ください。

http://osaka-drc.jp/about/faq.php